2026.10.03
特別企画 東出昌大×栗原英雄インタビュー

シェイクスピアの『ハムレット』と、シューベルトの『冬の旅』。戯曲と歌曲集という全く異なるジャンルの名作を掛け合わせ、ひとつの舞台『ハムレット、冬の旅 HAMLET’S WINTER』へと昇華させるべく、ふたりの俳優に白羽の矢が立った。ひとりはハムレット役の東出昌大。もうひとりは作曲家役の栗原英雄。このかつてない挑戦を前に、今ふたりはどんな思いを巡らせているのか。本作がついに動き出した、チラシ撮影のタイミングにふたりに話を訊いた。
――今回のお話があった時の心境は?
東出 このプロデューサーのおふたりから声がかかったら、なにはともあれ「行くか」みたいな感じです。若い時は、自分のキャリアの上で「こうあらねばならない」みたいなところもありましたが、今は私、結構野蛮人になっていて(笑)。野蛮人だからこそ自由でもありますし、自分が本当にやりたいと思える人たちとご一緒したい。しかも今までに見たことのないような舞台が現出されるかもしれないわけですから。これはぜひ参加したいと思いました。
栗原 チャレンジングな企画だなと思いました。と同時に、「どういうこと?」とも思って(笑)。でもこれを本当にやれたら絶対にすごいものになると思いましたし、正解が見えないことって面白いですからね。もともと演劇って正解がないものだと思いますし。もちろん怖いは怖いですよ、オペラを学んだことないですし。ただ今回はオペラ的なものを求められているのではなく、あくまで言葉を大切にしたいと。それならば、ということで挑戦することにしました。

――それぞれ演じられる役どころについて、現段階ではどのように捉えていますか?
東出 演劇界におけるひとつの大きな背骨として屹立しているのが、シェイクスピアだと思うんです。中でもこのハムレットに関しては、ずっと懊悩している人で、だからこそ繰り返し上演されているし、全世代の人たちに響く黄金比のようなものがあるのかなと。そしてそれを演じる役者には、本を読む力が求められると思っていて。時代背景や文化風俗なども考えつつ、深く、深く潜っていかなければ自分のものにはなし得ない。いや、とんでもないものを受けてしまったなと(笑)。とはいえ勉強の余地がある、というのはやっぱり面白いですよね。
栗原 僕は『冬の旅』を体現する作曲家の役で、いろいろなものを抱えながら生きている人物です。そしてそれを抱えたまま、解決することもできず、自死ということを選ぶこともできず、老いていく。そんな彼が、自分と相通ずるものを感じるのがハムレットですよね。ただそれは自分の中にあるものなのか、実は若いころの自分なのか、はっきりしないまま今の自分が流れていって。そういう何層にも重なった人物なのかなと。さらにそんな彼の状況を、音楽に乗せて表現しなければいけない。非常に難しいですが、なんとか自分の中に自然と音楽が流れるところまで持っていきたいなと思っています。
――この企画に臨む上で、どんなことが自らの課題になっていきそうですか?
東出 音楽とともに台詞を発するというのは、今までのストレートプレイでの実績にはない、初めての試みです。そこはもうたくさん稽古を重ねながら、首藤(康之)さんの演出のもと、自分の中でしっくりくる言い回し、さらには人物像を作っていくしかないだろうなと。私の中ではやったことのない分野ではありますが、今までやってきたことも決して嘘ではないはず。その両方の良さを出していけたらなと思っています。
栗原 役者の台詞というのは、自分で音を作ることができるんですよね。それは大きい、小さいだけではなく、固い、柔らかいといったことまで。でも今回は、それでは成立しないような気がするんです。東出さんが「死ぬべきか、生きるべきか」と言った直後に、「タ~タ~タ~♪」なんて歌い上げてしまったら、「お前いらないよ!」となってしまうわけですから(笑)。そこでどうすればきちんと受け取り、そして「はい、どうぞ」と渡していけるのか。これからの稽古で考えていきたいです。

――おふたりは初共演ですが、ご一緒するに当たり期待していることは?
東出 栗原さんは圧倒的な本物だと思います。ただその風圧を食らってよろめいているようでは全く持って意味がないので、私は私で、青二才なりの本物を求めていきたいなと。そして演出の首藤さんや、ほかの共演者の皆さんも含めたみんなで、共に上がっていきたいと思っています。
栗原 僕は初めましてが好きなので、今回東出さんとご一緒できるのも非常に楽しみです。よく二枚目、三枚目と言いますが、東出さんは“一枚目”の俳優だと思っていて。スッと立って、余計なことをしなくても、その人物になれる。さらにコメディもできるし、声もいい。俳優としてさまざまな素養を持った、とても魅力的な方だと思います。
――最後にお客様にメッセージをお願いします。
東出 都会ではあまり四季を感じられなくなってきましたが、演劇空間で、自然界の偉大さを感じてもらえることは、まずひとつ大きな魅力だと思います。さらに今まで見たことのような舞台現象が、目の前に表出するはずです。この魅力あふれる芸術をぜひ体感しに来てください。
栗原 未知の世界に足を踏み入れて、不思議だなと思いつつ、「あの人の人生の中には自分にも通ずるものがあるかもしれない」と探すことになると思います。きっと100人いたら、100人それぞれ違うものを持ち帰れる作品です。ぜひ僕らと一緒に、その不思議な世界を楽しみましょう。
取材・文:野上瑠美子