2025.09.26

宮本亞門×成宮寛貴 スペシャルインタビュー

演出家の宮本亞門と、彼の演出舞台『滅びかけた人類、その愛の本質とは…』(2000年)でデビューした成宮寛貴。このふたりの25年ぶりのタッグが、宮本が心酔する三島由紀夫の傑作『サド侯爵夫人』で実現する。成宮が演じるのは、タイトルロールであるサド侯爵夫人のルネ。不埒な夫を受け入れ、貞淑であろうとした彼女が、最後に選んだ道とは……。稽古開始を前に、宮本と成宮に本作に寄せる想いを語り合ってもらった。

――日本演劇界の最高峰に挙げられる作品ですが、この大作への出演を決めた一番の理由は?

成宮 それはやはり亞門さんが「やろう」と言ってくださったことに尽きます。僕が芸能界復帰を決めた頃、偶然にも亞門さんにお会いしました。その時、「じゃあ一緒に何かやってみる? やるなら本気で」と言ってくださって。僕も「本気でやりたいです!」と答えたものの、『サド侯爵夫人』と言われた時は正直驚きました。やはりとてもハードルの高い、簡単に手が出せるような作品ではありませんから。ただ自分の今このタイミングだからこそ、亞門さんを信じて、思い切って挑戦してみようと思いました。

宮本 もともと僕は三島さんが好きで、『サド侯爵夫人』もいつか演出したいと願っていた戯曲でした。ただ役者にとってもハードルが高く生半可では挑めない作品です。先日、1965年の初演に出られていた村松英子さんと対談させていただいた時、三島さんは「僕は戯曲を通して君を育てたい」と言っていたそうです。当初はその意味がわからなかったという英子さんも、台本を読めば読むほど自分が成長していくのを感じ、最終的に三島さんからも「よくぞやった」と褒めてもらえたと。つまり台本と真摯に向き合い読み込んで、読み込んで演じれば、役者自身がこの高いハードルを上がっていける。そういう台本だと思います。

――それはつまり、余白のある役者さんにこそやらせたい台本、とも言えるのでしょうか?

宮本 そう思います、これ、技術的にうまくやろうとか、お客にどうみてもらおうと思ってたら失敗する台本だと。そうなると台詞も生きたものでなくなり、役が存在しなくなる。これが三島台本の怖さでもあって。三島さんの言葉の美しさに酔っているとお客さんには伝わらない。台詞を全部入れ込んだ上で、演じなさいというのが三島の考え。だからこそ役者にとってはすごく勉強になると思います。あと三島作品の特徴としてやはり、肉体を感じられているかどうか。だから正直言うと、体を鍛えている人の方が有利ではあるんです。

成宮 えっ、そうなんですか?

宮本 肉体に意識があるからね、筋肉もです。それは見せびらかすということではなくて、意識することでしっかり存在出来るので。

――それは本作のように貴族の女性を演じるに当たっても有効なのでしょうか?

宮本 そうです。つまり精神性は同じですから。余分なものを排除して、舞台上で凛として存在出来るか。その点、成宮くんも鍛えている?

成宮 鍛えています。でも大事なのはその意識、精神ということですよね?

宮本 そう。いかに自分と向き合っているか、ということが大事であって。なんて言いながら、僕自身は全くジムとか行かないんだけど、スタッフだからいいか(笑)。役者というのは実に大変な仕事です。

――役者にとって成長させてくれる存在である一方、演出家にとっての三島とは?

宮本 僕にとって三島は学びが多過ぎます。演出をしていて、これで良いと行きつく暇もないくらいスリリングで面白いですし、壮大なパズルを解いていくような興奮がある。やっぱり僕は、三島さんと近くて人間の裏側全部を見たいんですね。表面のきれいごとには一切興味がなくて。で、三島さんが炙り出す、聖なるものと猥雑なものの間にある美に興味がある。演出する度に、「おい! その両極の中で人間の矛盾こそが面白いだろ」って言われている気がして。それに毎回僕はホッとして、初心に返らせてもらっているような感覚があります。

――成宮さんにとっては芸能界復帰後初の舞台となります。もう一度役者をやりたい、と思わせたものとは?

成宮 久しぶりにお芝居をしたらどうなるのだろう?という、自分自身に対する期待かもしれません。そしてもう一度挑戦しようと思っていたら、何の巡り合わせか、亞門さんに偶然会っちゃったりして(笑)。

宮本 それでやることになったわけだからね。ちなみに「もう役者はやらない!」と決めたことはなかった?

成宮 辞めた当時は思っていたかもしれません。実際離れても、未練はありませんでしたし。

宮本 じゃほかの役者の活躍を見て羨ましいと思ったことは?

成宮 ないですね。でもやはり何かを表現したいという性のようなものは常にあって、どうしても動物的に求めてしまう。芝居が好きだということに改めて気が付いて、戻ろうと決意しました。

宮本 あえて嫌な質問をするけど、世間に知られたいとか、売れたいってことではなく?

成宮 それはね、全く僕の中にはないんですよ。もちろん若い頃は承認欲求のようなものもあったかもしれませんが、今は本当にない。そういう無駄なものが一切ない状態で、改めて俳優にフォーカスした今、自分がどこまで出来るのか。それがすごく楽しみなんです。

宮本 なるほど。今回演じてもらうルネって興味を抱かれる役で、周りがいろいろ言いたくなるタイプの人だと思うんです。それに対して笑顔で聞く耳は持ちつつも、最終的には周りが驚くような結論を自分で出していく。で、成宮くんもそういうタイプじゃないかなと思っていて。周りの意見を抵抗なく受け入れながらも、自分と向き合い自分で考えていく。だからルネって役に成宮くんの生きざまが反映されていくと思うし、それはほかの役者にも言えることだと思います。

取材・文 野上瑠美子
撮影 大城為喜